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集会



「学校の先生に、統一教会ってうさんくさいっすよねーと言ったら、その先生統一教会で結婚式挙げた人だったんさー」と笑って話す友人がいるように、巷で宗教の話題を口にするのは最近どうも危なっかしい。しかしこの度、やめときゃいいのに私の宗教体験(また騙され系)を披露することとあいなった。くれぐれも言っておくが、私はこれから述べる宗教団体等について批判したりするつもりは毛頭ないので、もし関係者の方がいたらご理解いただきたい。
まずは、大学1年の冬にさかのぼろう。家で食パンをかじっていたら、2人のおっさんがやって来た。彼らには見覚えがあった。バイトをしていたラーメン屋のお客さんである。どうやらラーメン屋の主人に住所を聞いて来たらしい(教えんなよなー)。
彼らは、何教だかはわからぬが「ナンミョーホーレンゲキョー」系の皆様であった。若い方のあんちゃんが「こないだ事故起こしたんだけど、これやってるおかげでちょっとのキズで済んだんさ」等のありがちな勧誘文句を並べ立て、こちらも「ホントに効果あるんなら事故起こさねぇっぺよ」等のありがちな思惑にかられていた。その後「お金貯まるよ~」「お金あります」「幸せになるよ~」「今幸せです」といったカケヒキが続き、だんだんこの宗教が煩悩まるけであることに気付き始めた。ところが家の中まで上がり込んでしまった彼らは夜中になっても帰る気配を見せず、仕方なく「一回だけ道場を覗きに行く」という条件のもと、ようやくお引き取り願った。と思いきや、「折角だから今から行こう」ということになり、私も早いとこ縁を切りたかったので行くこととなった。
事故起こしてちょっとだけのキズで済んだ車に乗せられて数十分、意外なことにその道場は住宅地の真ん中にひっそりとたたずんでいた。しかし一旦中に入ると、その熱気たるや赤道直下のエアコン室外機並みである。美人OL風の人から何も知らぬ子供まで、熱心にその部屋の御本尊に向かって例の「ナンミョー~」を唱えていた。
私としては「なるほど、ではさようなら」といきたいところなのだが、何しろここがどこかもわからない有り様であるから先方の指示に従うしかなく、予想どおりみんなと同じことをさせられるハメに陥った。
数珠と教本を手渡され、「確か自分の家浄土真宗だったはずなんだけど、神様怒りゃせんかいな」という思いの中、私の「ナンミョー~」も狭い部屋にこだましていた。さすがにここまでやってしまえばもう信者扱いである。私を拉致した2人も「明日からは朝15分間、富士山の御本尊に向かって今教えたことをやってくださいね」とごきげん顔だ。
やっと帰してもらえた私であるが、息つく暇もなく次の日また彼らはやって来た。「ラーメンでも食べに行こう」と言うのでついて行くと、そこには昨日道場で見かけたOL風の美人が立っていた。「今日は道場で一番の美人を連れて来たよ」と言う彼らと共にチャーシューワンタンメンを食べ、その日は何事もなく終わった(一体何の意味があったのだろう)。
その後、ちょくちょく「今日の朝はちゃんと唱えた?」と聞かれたりしていたが全て「やってません」と答え、私が2年生になって引っ越ししたのをきっかけに音信不通となった(ザマアミロ)。
2年生になると、また新たな刺客が登場だ。人材派遣のバイト先(いろいろやってるなあ)にお勤めのおねえさんが、ある日「羽生市(埼玉県)に行きたいんだけどどうしてもアシがなくって、悪いんだけど乗せてってくれない?」と依頼してきた。私はどうやら彼女のお気に入りらしく、コンサートのチケットをタダでくれたりステーキ屋でおごってくれたりとかなり使える(悪いな)女性だったため、「まあこういう時ぐらいサービスするのもよかろう」と思い、承諾した。
県境の川を越え、目的地に近づくに連れて「?」と思うようになって来た。交差点に人が立っていて「こっちこっち!」とでも言わんばかりに指で示してくれるのだ。期待と不安が心中を去来する中、目的地である市民会館に到着する。
野外ステージでは変なエスパーニャ風の団体が踊りの稽古をしており、「どうせ何かの産業祭り系のイベントだろう」と良い方に考える間もなく、入り口の看板の「第○回△△教なんとか集会」という威勢の良い文字が目に飛び込んで来た。金色の建物や手かざしで有名な、例のアレである。このまま踵を返して車に戻ってもよかったのだがそれはあまりにも退屈だし、集会といってもどうせただ座っているだけに違いないと判断し、まだ危険予知の出来ない私はまたしても未知の世界へと旅立っていくのであった。
エスパーニャやタップダンサーがオープニングセレモニーで踊り狂った後、建物の中で集会が始まった。普通のコンサートぐらいなら出来そうなホールが人で埋め尽くされている。
開始早々、私は度肝を抜かれた。まわりのみんなはもう慣れっこなのだ。卒業式で自分だけ練習していない状態を思い浮かべるとわかり易かろう。大上人様が登場するや否や皆一斉におじぎをし、ボケボケしている私のみが明らかに浮いている。
壇上では青年の主張みたいに誰かが「早く大神様に使われる身になりたいです」的な演説を始めたり、ありがちな「私の娘は医者にも見放される難病だったのに手かざしのおかげで治りました」的な発表があったり、急に「かしこみかしこみ~」と全員の合唱が始まったりして私は必要以上にマゴマゴしていたのだが、そんな私に大きなピンチが訪れようとは、まさに「神のみぞ知る」と言ったところか。
この教団はかなり強大であり、いろんな拠点に支部等が存在するようで、集会の度に「各支部の報告」といったものが持ち回りで行われるらしい。そしてあろうことか、今回の当番が我々「北関東高崎支部」だったのである。
合図とともに高崎関係者の席に座っていた私のまわりはシャキッと立ち上がり、何かを大声で叫び始めた。タイミングを失って呆然と座り続ける私はどっからどう見ても異端者であり、全員の視線が私の挙動に注目しているのがわかった。ウニのようになった脳みそで「脚が悪くて立てない信者ということにしよう」という名案を思い付いたころにはやっとその儀式が終わり、大上人様のありがたい一言とともに宴は幕を閉じた。
私は素性がバレるのが大変恐かったので速攻で去りたかったのだが、連れて来た女性が既に「そちらの方は?」などと聞かれたりしており、一触即発ニトロ状態だ。とりあえず勧誘その他の憂き目には会うことなく家にたどり着けたので今の私があるわけだが、一歩間違えばどうなっていたかわからない状況だけに今思い出しただけでも鳥肌が立つ。
結局今思えば私はその女性の垂らす釣り針にも気付かずコンサート等の恩恵を被っていたわけで、もう少しで「教団」という名の水槽に移されるところであった。「うまい話はそうそうあるもんじゃないなぁ」という感想である。
今回は私の心の中で常にタブーとされている宗教ネタであった。宗教は誰がどれだけ信じて何を活動しようとそれは自由だが、何も知らぬ人様にだけは迷惑を掛けていただきたくないと思って止まない私である。ところで、浄土真宗は何すりゃいいんだろ?おわり。