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壱丁田湿原



我が武豊町の名物といえばタケユタカ記念切手だけだと思われがちな昨今であるが、甘い。実は泣く子も黙るようなポテンシャルを秘めた超大物スポットが街の最北端に存在する。その名もズバリ「壱丁田湿原」である。壱丁田(いっちょうだ)は武豊、常滑、半田のちょうど町境に存在する人も住めないような、武豊の北端に位置する筆者の家からは歩って5分位という大変便利なロケーションである(筆者の家は一応人の住める地域に属する)。
壱丁田湿原は見たところ「近くのちょっとした森」といった感じで何の変哲もないが、実はここには世界的にも類い稀なる「食虫植物」が潜んでいるのだ。
食虫植物とは皆さんお察しのとおり「虫を食べる植物」で、そう滅多にいるわけではないので学者の間では注目度が高い。そんなスゴいブツを抱えているにもかかわらず近くで子供らが鬼ごっこをしてあそんでいたりして甚だ危なっかしい限りだが、一応年に数回の一般公開日を除いては関係者以外立ち入り禁止となっているため辛うじてその貞操は守られている。
そして先日、年に数回の貞操を守らなくてよい日がやって来たのでついにその胎内に潜入することとなった。いつもは固く閉ざされている門がギィ~と開け広げられており、そこをくぐり抜けるとそこには予想どおり年輩の方々と何も知らず連れて来られたものと思われるお子様連中が待ち構えていた。そこはホテルでいえばロビーのようなちょっとした空き地になっており、シャーレの中に弱々しくたたずむやせ細った植物や写真だか絵葉書だかのようなものがところ狭しと並べられていた。
一応受付があるようなので名前を記入し、順路に従って人跡未踏の奥地へと進入して行く。湿地帯なのでさぞかし歩きにくいんだろうなぁと思っていたのだが、貴重な植物を踏んだりしないように丸太でちゃんと遊歩道が作られており、お客様満足への第一歩はひとまず合格である。
歩道のところどころに双眼鏡のようなものがくくりつけてあり、覗いてみるとそこには「ヤァ」とでも言わんばかりに名もなき植物がズームアップされ、なかなか面白い。
どんどん進んで行くと、武豊町の役場の人なのか近所の物好きなオヤジなのかは知らないが、とにかく何らかの説明係が待ち構えていた。そのオヤジは人が数人集まるのを待ってから流暢に語り始めた。「あそこに白い花付けた草があるでしょ。ほら、あそこあそこ。えっ、わかんない?ほら、その赤いやつの手前。そう、あれはねぇ、シロバナナガハノイシモチソウっていう名前の花なんだよ。なんでそんな名前なのかって?そりゃああんた、花が白くて葉っぱが長くて、石も持ち上げてしまえるくらいの強い粘液で虫を捕まえて食べる草だもんでそういう名前なんだがね。あっ、あの草はねぇ(もう次の客のところに行っている)」等々、それはそれは丁寧に教えていただいた。今後の人生において全く役に立ちそうにない情報であるにもかかわらずいまだにこの草の名前を記憶している自分が今あるのはこのオヤジのおかげである。
食虫植物を見に行ったのだから実際に虫を捕まえて食べているところを是非見てみたいと思っていたのだが、さすがにそれには相当な根気が必要らしいので今回は見ることが出来なかった。
ひととおり見終わるとまた最初の絵葉書売り場に戻った。来た時には気付かなかったのだが、どこから電源を供給しているのかは知らぬが食虫植物に関するビデオみたいなものがテレビでやっており、少々眺めていたが今内容を思い出せないところをみると大した内容ではなかったに違いないと察する。
一周するのに一時間もかからないようなこぢんまりとした世界であったが、なかなか退屈させないおくゆかしさを感じた。武豊町の誇る大ヒット作と言えよう。
今回は武豊町民の間でさえその認知度は数パーセント程度であると思われる壱丁田湿原についての突撃レポートであったが、いかがだったであろうか。年に数回の一般公開日についてはそこらの立て看板等に書いてある(問い合わせ先は知らない)のでもし興味のある方、植物好きの方、武豊好きの方などは一度お立ち寄りいただきたいと思う。
ところで、暗くなってからあの辺りを歩っていると犬に食われたり痴漢に出会ったりすることがあるので注意されたい。筆者もあの辺に住んでいただけに痴漢の容疑者扱いされたりして大変であった(アリバイあり)。参考までに。