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北海道



憧れのトワイライトエクスプレス!

筆者が北海道に心を奪われたのは、ちょうど昨年の今頃、桜の時期である。札幌出張に寝台特急を使って怒られた、アレだ。再び北海道の地を踏むことを決意して1年、ついにその時がやってきた。会社に入って初めての9連休(工場バンザイ!)、北海道一人旅の始まりだ。GWの真ん中にウドンコ婚姻の儀があるため5/4には帰って来なければならないが、それでも4/29からの5泊6日という夢の極楽ツアーである。
今回の往路は「トワイライトエクスプレス」だ。大阪発札幌行きの高級寝台特急である。筆者は別に鉄道マニアではないが、一生に一度この列車に乗ってみたかったのだ。大阪駅12:00発なので、朝早くに上野(三重)を出発。大阪へ行く近鉄では隣の女子が寝ぼけてこちらに寄りかかってくるなど、幸先の良いスタートといえる。
大阪駅で昼食を取ることにしたが、歩っていると「札幌ラーメン」とかかれた店を発見、「今から本場に行く人間にどんなラーメンを出してくれるものか」とちょっとだけ店よりも上の立場でラーメンをすすったが、意外にイケたため「ごちそうさま~」と低姿勢で店を出た。
「あ~、札幌ラーメン旨かったし、もう北海道はどうでもいいや」という思いを必死に抑え、トワイライトエクスプレスに乗りこんだ。この特急は日本海側を福井・金沢・直江津といった具合に通り、新潟近辺で日本海に沈む夕日を眺めてからはノンストップで北海道を目指す。
車内は自ら「高級」と豪語するだけあって上品で、特に「サロンカー」と呼ばれる車両は全てのソファー(座席というよりもっと高級な椅子だ)が日本海側を向いており、大きな窓からの眺めは絶景だ。筆者はこのサロンカーが気に入ったため寝るまでずっとそこにいた。寝台にいるより他の乗客と顔を合わせることが多く、面白い。変な緑色のタイツをはいてカメラを構えるオッサンや難しい顔をしてワインを飲みながら夕日を見るオッサン、一人旅風の既婚女性、外国人の姿も見える。備え付けのテレビでは鉄道員がやっており、ついつい観てしまう。この列車の良いところは、車窓から山が見えたり温泉地が近かったりすると放送で説明してくれるところである。まさに「移動用」ではなく「観光用」の列車なのだ。筆者所有の「お嬢様特急」なるゲームは稚内から鹿児島まで15日間の旅を続けるものだが、このゆったり感、車内の雰囲気、設備、目的等、もしかしたらお嬢様特急(一応「特急ヴェガ」という名前)はトワイライトエクスプレスをモデルにしたのではないかとさえ感じる。違いといったら、お嬢様がうじゃうじゃ湧いて出てこないところぐらいである(そんなのあったら10万円でも乗る)。
途中、乗務員のおねえさんが地図やテレカを売りに来た。これがまたなかなかのカワイ子ちゃんで、しかも接客が大変爽やかであった。おそらくはトワイライトに乗務したい人々の中から厳選された手練なのであろう。筆者もついつい地図とテレカを両方買ってしまったが、まあやむをえまい。
日本海に夕日がおちる寸前、列車が長い停車に入った。トワイライトを満喫させようという粋なはからいだ。と思いきや「えー、前方の列車で人身事故が発生し、信号待ちでございます。」というアナウンスが入り、車内は興ざめの渦につつまれた。結局粋なはからいは1時間半ほど続き、もうええっちゅーにというところでやっと発車した。
景色が見えなくなったところで寝台に戻り、寝た。前回見逃した真夜中の青函トンネルを一目見ようと、19時就寝だ。青函トンネルでは車掌さんがサロンカーで説明をしてくれるらしく、是が非でも起きなければならぬ。しかし列車が停車するたびに「ここどこだろう?」と外が気になって、結局青函トンネルの明朝4時まで一睡も出来なかった。賢い筆者は途中からサロンカーで寝るという秘奥義をあみだし、部屋を移る。どうやら同じ考えの輩が多いらしく、席は半分ほど埋まっていた。隣の人の良さそうな若者に話しかけてみると、どうやらかなりのトワイライトファンらしく、4年連続4回目の出場だそうだ。しかも岡山県民ながら北海道旅行は14回目という熱の入れようだ。「車掌の説明を聞くにはここがベストポジションなんです」と嬉しそうに語る彼だが、後で来たおばさんに「ちょいとごめんよ」と軽く割り込まれ、ちょっとガッカリのご様子である。
ついに青函トンネルをくぐる瞬間がやって来た。車掌の話によると、青森駅から10番目のトンネルが青函トンネルで、全長53.85km、トンネル内に竜飛海底駅と吉岡海底駅があり、その間が海の下なのだそうである。トンネル内には電光掲示板で札幌の大通り公園がチカチカと映し出されていたりして、なかなか面白い。青函トンネルを歩って渡ろうとして捕まった人が何人かいるそうだが、その気持ちもわかる。一度じっくりと見てみたいものだ。海底駅見学ツアーもあるようなので、いつか行ってみたいところである。
さて、青函トンネルをくぐるとそこは北海道である。車掌はまだ饒舌に「ここが北島三郎の実家の最寄駅ですぅ」などと説明していたがそんなことはもうどうでもよく、サロンカーに人影はなくなった。しばらくして、食堂車で朝食をとることにした。夕食は予約制だが、朝食は行けば食べられる。ちなみに夕食も食べたかったが、日本海和風コースが6,000円、フランス料理コースが12,000円と手が出ず、1,500円の朝食で手を打つことになったのだ。朝食は和か洋かどちらかが選べ、筆者は洋朝食にした。パン・ジュース・ベーコンエッグ・サラダ・コーヒー・ヨーグルト・フルーツ、といった感じで満足感のあるメニューだ。
列車は北海道をひた走る。ご存知のとおり洞爺湖近辺では有珠山が噴火し、長万部-室蘭間が不通となっていたため、長万部からは正規のルートをはずれて倶知安・小樽経由で札幌を目指す。こういうトラブルも普段では経験出来ないので、地元の人には申し訳ないがラッキーな気分である。倶知安(くっちゃんと読む)近辺では羊蹄山(別名蝦夷富士)が美しく、一時も目が離せない。本来ならば札幌着9:08であるが、1時間ちょい遅れて無事札幌入りを果たした。北海道での予定を特に考えていなかった筆者(宿泊所もとってない)だが、とりあえず札幌でラーメンを食べながら考え、旭川ラーメンを食べに行くことが決定した。

スーパー宗谷で稚内へ!

早速高速バスで旭川へ。今夜は旭川に泊まることにし、そうと決まればラーメン食いまくりである。まず行ってみたかったのが、名古屋でもおなじみの「梅光軒」だ。店の主人に聞くところによると、旭川といえば醤油ラーメンなのだそうで、筆者はもちろん醤油ラーメンをいただいた。これがまた旨いのなんの。旭川恐るべしである。もう一度名古屋店に行って確かめねばなるまい。スープまで飲み干してかなりお腹一杯になったが、がんばってもう一軒回った。しかしお腹一杯のためあまり味がわからず、店には申し訳ないことをした。
翌日、ついに無謀な計画を実行。最北端の地・稚内を目指すことになったのだ。旭川からは、つい最近登場したばかりの「スーパー宗谷」なる特急で3時間。その行程は見事なまでの農村風景で、場合によってはシカが跳ねていたりして「嗚呼、ここまで来たのだなぁ」と感無量になる。日本最北の駅である稚内駅に到着。稚内には「ノシャップ岬」「宗谷岬」という2つの岬があり、ノシャップ岬は駅からすぐ、宗谷岬はそこから30kmぐらいである。実は「宗谷岬」こそ日本最北端の地であり、筆者の計画では宗谷岬で日本最北端のラーメン屋に寄り、日本最北端到達証明書(というのがあるらしい)を発行してもらう予定なのだった。ところが稚内駅から宗谷岬への交通手段といったら一日2往復のバスがあるだけで、しかも筆者は乗り場を間違えて乗り遅れてしまい、最北端到達は夢と化した。残念ではあるが、ノシャップ岬近辺にも見所は多いので、スーパー宗谷でトンボ帰りするまでの3時間の間、気を取り直して観光することにした。まずは駅から丘を越えて上って行ったところにある公園。かなりの急勾配で上るだけあって、そこからの海の眺めは格別だ。もう少しで樺太が望めそうである。その公園で目を引いたのは「九人の乙女」という碑で、樺太で殉職した女性電話交換手の最期の言葉「みなさんこれで最期です さようなら さようなら」という文字が刻まれ、涙を誘う。また、樺太に残された人々の慰霊碑「氷雪の門」や俳句の道、展望台などもあり、なかなか面白い。丘を下ってバスに乗り、ノシャップ岬の先端へと向かう。岬の先端からは雪に覆われた利尻山が海面に浮かんでおり、「おおぅ」という感じだ。海以外何かがあるわけではない。しかし、そこには海以外何もいらない、そんな気持ちである。海以外何もいらないとは言っても、お腹は空く。近くに「ゴールデンウィークに付き増量中!」と書かれたウニ丼屋があったので、騙されたと思って入ってみた。メニューには「生ウニ丼」「ウニだけウニ丼」「2段重ねウニ丼」など悩ましいネーミングのものがずらりと並び、筆者のたのんだ「生ウニ丼」は「ウニだけ」ではなく、ウニの他にイクラ・ホタテ・ノリ・カニという5色になっていた。本当にGWだけ増量中なのかどうかはわからないが、なかなかのボリュームである。なぜか二輪車でお越しのお客さんにはサービスが良いようなので、バイクや自転車で行かれる方にはおススメだ(確か「樺太」という店だった。それにしても、名古屋から自転車で行くにはちと遠い)。

旭川・札幌・小樽・函館の王道コース!

さて、その後は来た道をそのまま帰り、旭川に戻ってまたラーメンである。さっきのウニ丼が大盛りだったためあまり腹が減っていなかったが一応2軒回って昨日と同じホテルに泊まって寝た。翌日は、小樽を散策することになった。旭川からバスで札幌へ行き、とりあえず昼はススキノのラーメン横丁へ行くことに。ススキノは、風俗店の呼び込みがうじゃうじゃだ。大きな荷物を持った観光客は彼らのマトになりやすいのだろう。筆者は何人かの呼び込みに旨いラーメン屋を聞いてみたが、どいつもこいつも「ラーメン横丁は観光客用だから旨くないぜっ」ぐらいのことを言い、その観光客用の店に行きたかった筆者であるが、聞いた手前やむをえず案内されたラーメン屋に入ることとなった。「まさかボッタクリラーメン屋ではなかろうなー」という不安の中出てきた味噌ラーメンはなかなかの美味で、値段も700円と普通であった。その後ススキノの街で何があったかはご想像にお任せし(聞きたいヤツは前に出たまえ)、数時間後にバスで小樽へと向かう。
小樽といえば、運河である。アベックであふれる運河沿いを涼しい顔で一人歩き倒し、地ビール屋でビールを飲み、北一硝子などを見学。小樽は全て歩って回れるところがよい(裕次郎記念館はちょっと遠いようだが)。夕方頃、雑誌に載っていた「一心太助」という小料理屋に入る。ここのイクラ丼はごはんが見えないほどイクラが乗って800円なのだ。サケなどの刺身も旨い。海の味がする刺身を食べたのは初めてである。カウンターの隣で飲んでいるおっさん&おばさんと仲良くなり、北海道談義に花が咲いた。北海道の食べ物や文化、さらには結婚式事情まで教えてもらい、結局ビール代までおごってもらって非常に満足である。驚いたことにそのおばさんはウチの北海道支社が入っているビルにお勤め(オーナーの○○生命らしい)ということで、これも何かの縁ですな~と、さらに盛りあがるのだった。
しこたま飲み食いしてウニ丼のようになった頭で「夜行バスで函館に行こう」という奇策を思いついたため、ひとまず札幌まで電車で戻る。函館といえば朝市、朝市で食べるイクラ丼はひじょ~~~に旨い、と北海道出身の友人マリゾーが語っていたのを思い出し、早朝に着く夜行バスを選択したのだ。ところが、どうやら函館行きの夜行バスは予約が必要で、バス会社に電話して食い下がったものの結局お払い箱となり、さらには札幌発函館行きの夜行列車「ミッドナイト」も有珠山噴火で運休とわかり、シブシブ札幌で一泊することになった。あてのない一人旅ではこのようなトラブルが多々発生するが、まあこれも旅の醍醐味といったところか。実は翌朝9時の函館行き高速バスも予約制だったのだが、ラッキーなことに座席が空いているようで、乗ることが出来た。さすがにGW、有珠山噴火で迂回する人々の影響もあって道がかなり混雑し、函館に着くころには夕方になっていた。
函館ではトラピスチヌ修道院などいろいろと回りたかったのだが、雨もおちてきたことだし、駅の近場を回ることにした。まずは五稜郭だ。チンチン電車に揺られて十数分。五稜郭公園前駅からしばらく歩いたところにそれは存在する。五稜郭タワーから見下ろす五稜郭は当たり前だが本当に五角形の星型をしており、美しい。日本の城では他国からの攻撃を防げないという理由により、ヨーロッパの城郭を真似て作られたそうである。驚いたことに「五稜郭」は函館以外に、長野県にも存在するそうだ。長野県の五稜郭は現在小学校に、函館の五稜郭は公園となっている。筆者は是非公園内を散策したかったのだが、雨足がひどくなってきたことと空腹で倒れそうだったことが重なって断念、死にものぐるいでラーメン屋へと向かった。函館駅近くの「来々軒」で塩ラーメンを食べて一命をとりとめた筆者は返す刀で山に登り、函館名物100万ドルの夜景を見ることにした。ところが函館山ロープウェーの切符のもぎりのおばちゃんが「今日は霧で夜景は見えんよ」とこっそり教えてくださり、登頂は諦めることに。しかし山のふもとからでも夜景は美しく、500ドルぐらいの夜景は堪能できたものと察する。参考までに地元民の話によると、毎年8月中旬ぐらいに「夜景の日」というのがあるそうで、その日は函館市民ぐるみでわざとカーテンを開けておくなどして山から夜景が見えやすいようにするそうだ。北海道の人となりを感じさせる、微笑ましいイベントだ。
山を降りて、ライトアップされたキリスト教の教会等を見学、その後は夜中の上野(東京)行き寝台特急北斗星(昔出張で乗って怒られたやつ)の発車時刻まで駅近くのバーで地ビールを飲んで過ごした。1時間遅れで出発した北斗星は青函トンネルを来た時とは逆の向きに通り抜け、筆者をウドンコの待つ東京まで誘うのであった。6日間という月日を感じさせないほど充実した旅であり、ますます北海道が好きになる筆者である。充実した旅ではあったが、課題も残った。「最北端の地を踏めなかったこと」「ラーメン横丁に行けなかったこと」「小樽でハスカップジュースと白樺の樹水を飲めなかったこと」「函館で夜景を500ドルしか見れなかったこと」―――これらがまた筆者を北海道へと誘っている。ついでにススキノも誘っている。来年の今頃はまた15回目の北海道を目指す若者と同じ列車で出会うかも知れない。筆者の旅はまだ始まったばかりだ。